いばらのみち

わたしが、わたしの人生を謳歌するブログ

よる、忘れられない

 

 

お題「修学旅行」

「CRAZYFORYOU」っていう漫画をご存知ですか。

君に届けを描いた、椎名軽穂先生の作品なんですけど、

主人公の通う女子高と、片思いの男の子が通う男子高の修学旅行の行き先が京都。

自由行動の日に、示し合わせて嵐山へ行くシーンがあるんです。

 

渡月橋の北側、嵯峨野に広がる雄大な竹林。

幽玄な空気に包まれる竹林のど真ん中を、ゆっくりと歩く。

そして、待ち合わせの時間に、他校生の男の子(彼氏ではない)とお土産交換をする。

こんな修学旅行に憧れたものです。

 

憧れますけど!現実は!

実際のところはフツーに京都の名所を観光して、抹茶パフェを出す喫茶店をはしごする、みたいなよくある行程をこなして終わりました。

学校の先生は行く先々で、歴史的建造物の意味、成り立ち、纏わる歴史を教えてくれたけれど、あの当時のわたしの頭では「へぇ、そうなんだ」くらいのもので、金閣寺が金ピカだったことぐらいしか覚えていません。

 

CRAZYFORYOUは、バッキバキの少女漫画で、爽やかな三角関係が好きな人にオススメ。是非読んでください。

 

それよりも、修学旅行に至るまでの経緯の方が色濃く記憶に残っています。

「班決め」での「女子派閥争い」なんか、最たるもので、

Xデーが訪れるまで、「裏切り」に戦々恐々とし、根回しをして……

それに比べると、あっけらかんとした男子の友情に憧れたものです。(それも想像だけど)

とにかく、後にも、先にも、あんなに面倒臭い人間関係の中で、

毎日そわそわ暮らしていたのは、中学生のあの頃だけかも。

 

けれど、そんな野暮ったい中学生のわたしにも、

修学旅行の最終日の前日、忘れられない夜がやってきます。

忘れられないことは「夜」に起きると、相場が決まっているわけです。

 

 

 

 

明日は修学旅行最終日、ついに自由行動の日だ。

わたしはルームメイトのアスカちゃんと、歯磨きを終え、明日の予定を話しあっていた。

ビジネスホテルのツインルームを充てがわれたわたしたち。

人生で初めて、ホテルの部屋を子供だけで独占したのだ。誰からも干渉されない世界に、小さなわたしたちの胸が踊った。

 

話題は明日どこを回るかに始まり、なにを食べるか、八つ橋はいくつ買うか、から定番の恋バナへ。

アスカちゃんとは部活が違っていたから、特別仲良いクラスメートではなかったけれど、いつもと違う状況がわたしたち二人の舌を酔わせた。

気づけば、互いに、言わなくってもいいことまで漏らしてしていた。まさに赤裸々。

ダウンライトの中、スプリングの強いベッドに寝そべり、二人でこれまでの人生について語り合う。主に誰を好きになって、その恋の行方がどうなったか。それに尽きるのだけれど。

 

「それって自然消滅ってヤツ?」

「そう、なのかな」

アスカちゃんは、天井を仰ぎながら、諦めたような口ぶりで言う。

まるで昨日カレー食べたよ、みたいなつまらないことを報告するような様子で。なんでアスカちゃんは、こうもあっけらかんとしているんだ。

恋の終わりは、しっかりと、口で、告げるべきだ、と中学生らしい正義感を振りかざすこともできず、わたしは相槌を打つ。

中学生でも女の子、女性とは共感を重んじる生き物なのだ。

「それにしても、タクミのヤツ、ひどい。嫌な男」

「そうだよね!」

「そうだよ!早く忘れちゃいな。ほら、男の傷は、男で癒す?って言うじゃん」

「でも……。世界の中心で愛を叫ぶ」

「は?」

「セカチュー。映画の」

アスカちゃんは中2にして元彼の人数が3人いて、わたしの一歩も二歩も先をゆく、

同級生の中でも「進んだ」女の子だった。

当時のわたしの想像を超える(付き合おう、はい、別れよう、はい、で終わるような恋)恋愛はとっくに卒業してしまっているのだ。

衝撃に背中を打たれ、わたしは身を乗り出して、その先を待ち続ける。

 

焦らすようにアスカちゃんはごろりと寝返りを打つと、部屋の四隅を覆う暗闇に、アスカちゃんのパジャマの柄が溶けてゆく。

なんだかすごい発表が聞けそうで、わたしは、固唾を飲んで見守った。

そうして彼女は神妙な声で続けた。

 

「朝目覚めるたびに、君の顔を思い出す、って歌あるじゃん」

平井堅の」

「そう、それ。主題歌の」

「朝目覚めるたびに、タクミの笑顔を思い出しちゃうんだよね」

「うっわー、すごい。映画みたい。大人の恋ってヤツだ」

「ふふふ。でも、ずっと忘れないと思う、わたし、タクミのこと」

 

そんな彼女も、今は一児の母で、おそらくこの夜のことは忘れてしまっているだろう。

(もちろん旦那はタクミではない)

それは置いておいて、問題はこの後である。

 

消灯時間をとっくに過ぎた深夜0時、部屋のドアがバンバンと叩かれる。

「先生?ヤバ、寝たふりしよ」

 弾かれたように布団を被るわたしに、

「……違くない?なんか、声聞こえるけど」

アスカちゃんはさっきと同じような神妙な声で言った。

アスカちゃんに従い、そろりそろりとドアに近付くと、確かに小声で「助けて」と聞こえる。ドアスコープを除くと、パジャマ姿のアイコがいた。

 

つづく